天武天皇の肉食禁止令以来、日本人は獣肉を食べなくなった・・・というのは、あくまで表向き。
ほんとうは、こっそり肉食をしていたことは、容易に想像されます。
なにしろ、江戸時代には将軍みずからが、その禁を破っていた節があるのですから、庶民が従うわけがありません。
例えば、14代将軍家茂の食事を書いた本によると、獣肉はウサギのみで、あとはいっさい食前にのぼらないとなっていますが、ふだんの食事には、ほかの肉類も供せられていたようです。
・・・というのも、彦根藩がその名も「ご養生牛肉」と称して、牛肉のみそ漬けを毎年献上していたからです。
ご養生とは、つまり薬代わりということですが、いかにもみえすいた言いわけです。
庶民のほうでも、おおっぴらに食するのは気がひけるので、もっぱら「薬食い」と称して、薬.石屋.で獣肉を賞味していました。
有名な蕪村の句にも、「妻や子の寝貌も見えつ薬食ひ」というのがあるほど当時は一般的でした。
とくに寒中、シカの肉を食べると邪気を払い、血行をよくするといわれ、今でも俳句の季語になって残っています。